かざみきもの学院
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<2008年10月>

 

仕事

学院長  ある朝なにげなくテレビをつけると、讃岐うどんのお店の様子がみえました。しばらく見ていると、なにか違う雰囲気、そこから出てくる胸の奥まで入ってくる言葉・・・そのうち私は机に向かってメモをとっていました。
それは、理学療法士新井馨太さんが立ち上げた、デイサービスとうどん屋が一緒になったリハ工房のおはなしでした。病院で、限られた時間しか受けられないリハビリでは、回復した運動能力を維持することはできない、これを誰が助けるのかという新井さんの疑問からこの施設ができたとのことです。ここでは、リハビリを受けますが、その隣にはよくなった人たちが働ける場所、讃岐うどんのお店があります。それは新井さんの奥様が香川県出身ということで始められたのだと思います。

 軽い知的障害がある女性が、一日のうち2,3時間食器洗いをする仕事がありました。
重箱がきれいに重ねて積めることが楽しいらしく、丁寧に手洗いをしていましたが、あるとき、早く終えたいから、重箱を食洗機に入れました。そのことに関して新井さんが注意をしてまた手洗いをする様子がありました。 
「機能回復の最高の状態は働くこと」といわれる新井さんの、リハビリの先生と、うどん屋の主人としての忙しい毎日を過ごしておられる様子が流れました。
その中の言葉で、「できないことを助けるのではなく、できることをより引き出す。これが人を生かすこと。」「みんな役に立つ存在であり続けたい。」という言葉が、心に残りました。
この時、母の口癖の「してあげられるうちがいいのよ。」という言葉を思い出しました。

 もう一つのお話です。両親が日本人で、アメリカで和食のお店をしているというアメリカ生まれの若い男性が、日本の寿司屋で、修行をする様子が流れました。両親が日本人なので日本語を話せるけれど書けない状態。はじめて日本に来て、寿司 和食の勉強の前に、諸々の習慣、労働についての意識の違いなど、日本の板前の修業など私が思っていたこととは違って驚くことが沢山ありました。労働(?)時間の問題、仕事後の過ごし方もアメリカ流で、そこで修行をしていた先輩も彼に感化されたり、深夜までかかって作るおせち料理をお重に詰めて仕上げをするのに、早く終えたい気持ちが先走り雑になってしまったことなど、いろいろな状態、出来事が流れましたが、習慣が違うんだから、だんだん分かるようになると、優しく辛抱強く教えていた親方の姿に頭が下がる思いでした。
少しずつ変化が見え、日本の習慣、繊細さ、日本料理について、興味が出てきているように見えました。アメリカから様子を見に来られた両親に、上手にできるようになった玉子焼きを嬉しそうに出していたのが印象的でした。

 こういう例は特別ですが、また、仕事について考える機会を得ました。
作業は与えられたことを完璧にこなすことを目標に、自分にとって能率よく進める工夫をすることも必要なことかもしれません。仕事は、直接お客様と接する仕事でなくても、たとえ、物を製造する流れ作業の一部を担当するにしても、この製品がどのようなものになり、この一つのねじに不具合があれば、どういうことになるか、製品を作ることの喜びと、責任をしっかり自覚していると思います。作業と思うか仕事と思うかによって違いが出ます。

 今、マニュアル通りにという言葉が否定的に使われることが多くなりました。けれどもマニュアルは、いろいろなことを考え、理由があって、スムーズに運ぶために検討に検討を重ねて働きやすいように間違いがないように作成したものであることを認識する必要があると思います。自分の工夫により変えたいときは、必ず上司に言うことです。マニュアルの内容は、理由があって絶対変えられないこともありますが、現場の人だから分かることもあります。現場の人の声からマニュアルが変わることもあるし、一部は幅を持たせることもあると思います。
接客マニュアルを否定的に言われるのは、言葉に気持ちが入らないこと、お客様の立場で考えていないことが問題だと思います。
もう一つ大切なことは、きちんと仕事ができる人が、忙しさのために、現状や先のことが見えない「やっつけ仕事」や「作業」になることがあることも知っておく必要があります。
これは自分もそうなることがあるのではと、時々、客観的に見るよう言い聞かせていることでもあります。

 別の面から一言・・・。企業が伸びていくには、常に、目標を高くもって向かっていくことは言うまでもなく大切です。確かに「現状維持は後退」です。このことを経営者が自分の中に持っていること、社員に話しておくことは必要です。けれども、経営者や上に立つ人は、もう一つ、「現状維持は努力なくしてあり得ない」という考えもどこかに持っていてほしいと思います。現状を認めた上で、いい気持ちになった人に次の課題を与えると抵抗なく入ってきます。これは子供であれ大人であれ、優秀な社員であれ、同じです。  人間ですから・・・
甘いといわれるかもしれません。企業が伸びていくことは戦いであり、勝つことかもしれません。けれども、優秀な企業戦士でも否定の言葉ばかり上から浴びせられると、ストレスをいっぱいため体を壊す人もあります。仕事だけを考えていた人が定年退職後、趣味もなく、何をしていいか分からない人もいます。これまで家のことや家族のことに目を向けなかったから、これからはずっと家に居ていいお父さんをしようと思うときには、妻や家族はお父さんが居ない生活に慣れ、三食食事を作る不満や、「濡れ落ち葉」などという言葉が出てくるのは、何とも悲しいかぎりです。

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渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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