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<2011年2月>

 

おいらん

学院長 昨年の成人式には肩出しが問題になりましたが、今年は「おいらん」を希望する人がぼつぼつ現れました。それは深い意味はなく、「人と変わったもの」「目立つもの」、「タレントが何かの時に着ていたのを見た」「コスプレではやっている」などの気持から、求めるのだと思います。

 二十歳のお嬢さんでは知らない人も多いと思いますので、ここで「おいらん」の簡単な説明をします。「おいらん」は、「花魁」と書きますが、遊女のことです。遊女は江戸時代、遊郭や宿場等に居た娼婦、女郎などと言い、位の高い人を太夫と言います。
当時は身分の高い客もありました。中国の故事に「傾城 傾国の美女」という表現があります。「一度会えば夢中になって城が傾き、再び会えば国が傾く」と言われるほど美しい遊女を「傾城(けいせい)」と言いましたが、日本でもその言葉は使われます。
最も位の高い遊女を太夫と言いますが、江戸吉原遊郭では花魁と呼ばれるようになりました。
花魁道中は、正装で、前に結んだ「俎板帯(まないたおび)」は、胸前から1メートルくらいありますが、花魁も日常はこんな豪華な姿ではなく、部屋着の帯は簡単な鮟鱇(魚のあんこうが口をあけている姿に似ているので)帯を前に結びます。
花魁道中は、禿(かむろ)という身の回りの雑用をする少女や、振袖新造(15歳くらいの見習い妹分)を引き連れて客の待つ引手茶屋まで迎えに行くことなのですが、他の人にも見せる意味もありました。三枚歯下駄を八の字に、誇らしげにゆっくり練り歩く姿は、遊郭の中では最高の姿ですから憧れたことでしょう。
「おいらん」というのは江戸吉原での呼び名で、見習いの禿や、新造等が、「おいらの姉さん」と呼ぶことから「おいらん」になったとも言われます。

 私たちが目にするのは、映画やお芝居で、美しい女優さんや女形が演じるものしかありませんので、それはきれいで見事なものです。(各地の祭りの催しなどで花魁もどきが見られることもあります)
余談ですが、私が以前時代衣裳、舞台衣裳の勉強をしていた時、相モデルで、この花魁の俎板帯の正装着付・メイク・かつらもしたことがあり、素足に三枚歯下駄の花魁姿の写真もありますが、ちょっと人には見せられません。

 そういう深い意味はなく、ただ前結びを求めているのだろうと思います。前結びは、一般の人にもなかったわけではありません。江戸中期、細帯だったのが帯幅も広くなって、ミスは後ろ結び、ミセスは前結びという時代もありました。この前結びは、生活をするのに不便ということもあり、ミセスも後ろ結びへと変わっていきました。
また、私も25年前、ショーの中に前結びを入れたこともあります。それは同じ帯を3種類の着方として表現したもので、ショーのためのものでした。

 けれども、成人式は意味が違います。この時は本人よりも御両親が、生まれた時のことから20年間の色々なことを考え、無事成人してくれたことを本当に嬉しく思い、また、安心するものです。その時に、遊女の姿は、お父さんがこのことを知っていたら悲しいと思います。

 時代も変わって色々なものが流行します。否定するわけではありません。流行を追いかけて行く中でも、どんなにはじけても、T.P.Oをわきまえて、自由に集まるパーティーにはいいけれど、特に儀式の場合は、意味を考え、見合ったものを着てほしいと思います。そういうことを考えられるようになることが大人になることではないでしょうか。

 またそのことは、母親が教えることだと思います。以前はお母さんが分からなくても、おばあちゃんが教えたものですが、核家族になり、おばあちゃんが一緒に住んでないので遠慮したりして、教えてあげる人が少なくなったからでしょうか。

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渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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