かざみきもの学院
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<2012年6月>

 

第5の着物

学院長 2009年、全国きもの指導者協会3回目の総会ときものショーを松山で開催しましたが、その1年前、新緑の5月早朝散歩の時、第4の着物が見えて来たと、万華鏡にも書きました。その第4の着物、「ぬ・く・も・り」をタイトルにきものショーを行いました。それから3年、今私にとっての「第5の着物」の思いがいっぱい広がってきました。

 第1は 【伝統の着物】
これは誰でもが知っている程度の理解でした。

 第2は 【ファッションとしての着物】 
初めて、群馬に全国の先生方をお迎えしての総会ときものショーでは、まさにこのファッションとしての着物でした。変わったものがあると、普通には着られないけれどショーに使えると買い、 変わったもの・華やかなもの・珍しいもの、と求めていきました。
夢中で終えたショーは、皆さん喜んでくれました。けれども今思うと、することで精いっぱいで、何のテーマも、主張もないものだったように思います。ただ、100人の人が舞台に上がり、その人たちが喜んでくれたことが、ある意味成功だったと言えるのかもしれません。

 その頃から始まった講談社の 「きものと着付け」 の本の仕事も、着方や帯結びのプロセスを撮影するのに、帯結びを考える時も、変わったものを目指していたように思います。
15年のうち、同じようなことをするのに気持ちが乗らなくなりました。 「もっとみんなが困っていること。たとえば、ふくよか体型の人の着方のコツ、寸法の足りない帯の結び方、脱いだ後の洗いシミ抜きのこと」 と自分の意見も言えるようになり、その企画を入れてもらえるようになりました。
振袖の帯結びは、誰でも簡単にでき、華やかに仕上がる方法を考えることを一番に、新しい帯結びを考えていくようになりました。ある時、先方からの電話で、「今回は留袖の帯結びと・・・・。あ!渡部先生は留袖の変わり結びお好きじゃなかったですね。それではこれとこれ・・・」 と。留袖も何度かすることはしましたが、本当にいいと思わないことは気持ちが乗らない・・・。

 この期間に着物のことを本気で考えるようになり、私の中で大分成長がありました。
今の浴衣や振袖の自由にいろいろな飾りをつける着方を否定するのではありません。この時期だからいいので、その人が大人になるに従い、シンプルで、格調高く、上品に、さりげなく、その時々の大人の女性の着こなしをしてくれるものと思っています。

 第3は 【女性を内から外から磨き高めていく着物】
もともと私がこの道に入ったのは大人の女性への憧れでしたが、この道で年数を重ねるごとに、生徒さんから大切なことを学びました。
初めは自分が着ることができればいいと言っていた人が、自装から他装、資格をとって上へ上へと向かうにつれ、技術だけでなく、物事をだんだん広く大きく考えるようになり、好きなことで誰かの役に立ちたいと思えるようになる。想像はしていましたが、実際にそういう人が大勢出てきました。これまでに私自身、この人たちからどれだけパワーをもらったか分かりません。改めてきものの大きな力を知ることができました。

 2回目の総会きものショーは、松山校開校5年目に県民文化会館(ひめぎんホール)でした。松山の人だけでは 2時間のショーをするだけの力はなく、本校から大勢応援があっての開催でしたが、最後のシーンで、夏の着物をシンプルに着こなすミセスを出すことで、若い人たちの華やかなシーンで終わりたいという演出家と衝突しました。このことはどうしても譲れませんでした。それは、当時最も強く考えていた、目指す大人の女性の姿を表現したかったからです。

 第4は 【ぬくもりの着物】  今回は長くなるので省略します。

 お話は変わりますが、全国組織の、NPO(特定非営利活動法人) 「和装教育国民推進会議」 が、中学校での、和装教育必修化に向けて、何年も前から頑張っていました。
このことは、大手のきもの学院をはじめ、着装・和裁関連、生産・小売り・流通関連と、直接着物にかかわっている人達だけでなく、日舞 歌舞伎俳優 茶道 華道家元 ファッションデザイナー、女優、歌手、寺住職 神社宮司、大学教授 等々、各分野を代表する大勢の方にも賛同をいただき、 「和装教育必修化」 の要望を国に提出して、いよいよ今年度から、中学生の家庭科の授業に着物のことをとり入れ、浴衣の着装実習が入ってきました。

 「子供・中学生に着物を通して忘れかけている大切なことを伝える」 「日本人が日本人であるためのきもの教育」 は、私の中にいつもありました。また、これからの人が国際的な交流をしていく中で、着物がとても大切になってきます。これまでも、外国に駐在が決まった御主人と一緒に行くことになり、日本に居る時は必要と思わなかったけれど、「日数がないけどなんとかしてください」 と言って来られ、特別指導をした方は何人もおられます。今の中学生が大人になる頃は、もっと多くなると思います。

 第3の 「女性を内から外から磨き高める」 は、大きな気付きでした。第4の 「ぬくもり」 は、私の中に、ずっとベースにありました。静かに存在していたといっていいと思います。
けれども、この 【日本人が日本人であるためのきもの教育】 は、もっと強く激しくかきたてるものがあります。これが私の 「第5の着物」 なのだと認識しました。

 長い間この道を歩いていますが、その時々に着物に対する思いも変わってきました。その度に、着物の大きな力を感じました。また、その時感じていることをそのまま表現することができたことを本当に幸せに思います。学院で養成した着物の大好きな人達が、この思いをそれぞれの中で感じ、本当に思ったことを広く伝えていってほしいと思います。

 ちょうどこの中学校家庭科の和装教育必修化にあたり、家庭科の先生の研修会の依頼を受けました。家庭科の先生が、中学生という大切な時期の人達を担当していただくことになります。 「着物を通して、日本人が忘れかけている大切なことを伝える」 という、中学校での和装教育必修化に向け、ここまで来るのにどれだけの人が熱い思いで行動してきたかを御理解いただければ幸いです。

 ※来月から 5 日更新になります。

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渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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