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<2016年2月>

 

日本の蚊帳が世界の子供を救う

 ある日のテレビに 「アフリカを救う住友化学 伊藤高明氏」 のことが出ていました。この方は農学博士、日本の殺虫・防虫技術開発者とありました。私には分からない分野のことなので真剣に見ていませんでしたが、アフリカのマラリア感染予防のための蚊帳 「オリセットネット」 を開発し、アフリカや他の地域で普及させ、多くの命を救ったお話しを見ている間に、だんだん引き込まれてしまいました。また、伊藤高明という方の考え方、生き方をもっと知りたい思いが強くなりました。

 以前のように色々な分野の方たちとの交流は少なくなりましたが、ありがたいことに、今は興味のあることは大体ネットでも調べられます。もう一つありがたいこと(?)は、歳を重ねてきたので、直接聞かなくても、正確ではないかもしれませんが、文字の中からそれなりに理解し、自分の心に響くようになりました。

 伊藤氏は、社の農薬の研究室から殺虫剤の研究室へ異動。そのころ 「サウジアラビアでマラリアが流行」 との報道を見て、その瞬間、「マラリア対策をライフワークに」 と決め、会社の仕事をこなしながら独力でマラリア感染を防ぐための研究を始めることになりました。よりよい蚊帳をと、窓の網戸 (ポリエチレン樹脂) からヒントを得て、現地の暑さの件も考慮し、網目の大きさ等試行錯誤の末、最高の蚊帳 「オリセットネット」 が出来上がりました。

 WHOやユニセフなどで、マラリアによる死亡率を半減の計画は、殺虫剤処理をした蚊帳の使用による感染予防をと考えていましたので、この蚊帳は高く評価されました。ある時スイスで開かれた世界経済フォーラム総会(ダボス会議)で貧困支援の財源について討議していた会で、聴衆の中の1人 (アメリカの女優シャロン・ストーン) が 「私が1万ドル寄付します。これでマラリア予防の蚊帳を買って下さい。そして寄付金に賛同する方は立ち上がってください」 と立ち上がり、すぐに賛同する出席者が続出。数分で100万ドルの寄付が集まったとのこと。この光景は世界に取り上げられ大きな反響を呼んだそうです。

 その後、大量の注文があり、世界に広がっていきました。このことは感染予防の効果だけではなく、現地では工場で多くの雇用があり、感染が減ったことから農作業に従事する人も増え、荒れ地が畑に変わる現象も起きて、また、生活が充実することにより、教育の問題、学校建設へと進んでいるそうです。

 幼い頃から海が好き、泳ぎが得意な伊藤氏は、船乗りになって、(大型船の船長になって)インド洋の夕日を見るのが夢だったとのこと。その、「サウジアラビアでマラリアが流行」との報道を耳にしたその瞬間、サウジアラビアの砂漠に沈む夕日の情景が見え、子どもの頃に夢見ていたインド洋の夕日と重なったそうです。このことも背中を押したのではないかとの見方もあるようです。

 部下の一人のお話の中で、伊藤氏は 「なんでも自分でする」(自分達にさせないで)という言葉がありました。それは、「どうなるか分からないものに部下を使うことはできない」 との考えからでした。けれどもその人達は、軌道に乗ってこれが会社の仕事となる前から、この上司の姿、取り組み方をずっと見てきて、多くのことを学んだと思います。アフリカをはじめ世界の子供達を救うという高い志を持って取り組んだことは、結果として会社にも絶大な貢献をしたことになります。

 今回テレビがきっかけではありましたが、調べていくにつれ、この方の業績は言うまでもありませんが、考え方、取り組み方、社内での立場、部下に対して、その中でも湧き上がる熱い思い、幼い頃から持ち続けた夢、色々なものを含む 「人となり」 が見えてきて、私の中で、別の面でも響くものがありました。

 今、色々な場面で、後ろ向きの言葉、「対案のない否定の言葉」、個人の場合でも 「そこから何も生まれない、ただ不満だけ」 ということが多い中で、前向きでいいお話があるとすぐに反応して、嬉しくなります。そしてまた、そのことを伝えたくなります。私のPCのドキュメントの中には万華鏡ストックとして、いくつもこんなお話が入っています。

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渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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