季節と着物
 春といえば桜、全国各地で桜の便り、桜の下、皆で集まりお花見・・そしてあっという間に花は散り、後には若葉が・・やがて 「薫風」、「風薫る」 などという美しい言葉が・・花も木々も空も美しい季節のうつろいを感じるいい時期になりました。
着物も季節を大切にします。着物の花柄はその時の季節の花を中心に選びますが、こだわる人は、桜が咲く前に桜の柄の着物を。満開の時は控えて、終わるころに 「名残の桜」 と言ってまた着る。こういう粋な人もあります。そこまでいかないにしても、やはり、季節を意識して着るのは気持ちが豊かになります。
その前に基本的なことですが、一つ知っておきたいのは季節の花は、写実的に描かれているもので、図案化されたものはその限りではありません。夏の絽の小紋に桜の花の図案化されたものもあります。また、訪問着等も最近では、四季の花が一緒に描かれて、花の季節を気にしなくていいものが多くなりました。こだわる人はこだわりますが、もっと自由に着られるようにと変わってきました。
また、寒暖の面からは、10月から 5月までは袷の着物、6月 9月は透けない単衣、7月 8月は絽や紗の盛夏の着物と決まりがあります。これは学校や会社等制服を着るところは、どこも夏服冬服と衣替えの習慣が、6月1日、10月1日と決められたことからきています。夏冬とはっきり分けないで、6月 9月はその境目なので、冬の着物と同じ布地に裏を付けない 「透けない単衣」 7月 8月は見た目も涼しそうな絽や紗になります。
これも実際には、5月も半ばを過ぎると、6月はさらに、暑くなるのでそれぞれ半月ぐらい前から夏に向かって着ることが多くなりました。また暑さ対策で、長襦袢を早くから夏物を着ます。ただ、6月1日の衣替えの習慣を大切に、この日までは夏の襦袢に冬の半衿を付け、この日から半衿と帯は夏物にします。これはよく着物を着る人の快適に着るための一つの知恵と言えます。
私の知人で、ある年（夏が後ろに1か月ぐらい伸びたかと思うほど暑い）の9月初め、透けない単衣を着て出かけて、汗だくになったお話を聞きました。9月初めはしばらく絽を着てもおかしくはないのですが、季節を気にする方は、秋に向かうので、濃い色の絽の着物がお勧めです。
結婚式は母の時代は絽の留袖も個人が持っている人もありましたが、今では、会場の冷房のおかげで、個人はもとより衣装屋さんでも夏の留袖をそろえている所はあまりなく、冬の物を着ることが多くなりました。
色々な面で便利になり、高度なハウス栽培の技術により、花も野菜も季節に関係なく、いつでも手に入れることができるようになりました。それも少し寂しい気がします。
季節のことではありませんが TPO についても一言。大分前、中学校の入学式のお母さんの着付けをした時のことです。何枚か持って来られて、相談ということでしたが、この前これを着たので違う方を着たい。せっかく着付けてもらうので変わり結びをとのご希望でした。 その方は、地味な着物に二重太鼓を勧めたので了解はしてくれましたが、どこかにあきらめきれない様子も少し見られました。私もその後着替えて同じ場所へ行く予定でした。渋い無地の着物をもう一枚作ったばかりでしたが、中学校の入学式会場（体育館）にはぴったりと思っていました。会が終わって帰ろうとした時、少し前をその方が 4〜5人の人に囲まれ褒められてうれしそうにしているのが見えて安心しました。学院でも多くの着付士が出張着付けに行っていますが、着付けの技術だけではなく、こういうことを「気分を損ねないように納得していただく」ことが求められます。
とりとめのない着物のお話でしたが、私がこの道に入ったきっかけは夏の着物をシンプルに、涼しそうに着ていた素敵な大人の女性を見てからです。
今大切にしていることは、季節を感じる感性です。花屋さんではなく庭に咲いた花を、その枝ぶりや表情を生かして、家の中で邪魔にならないようにさりげなく、季節の花を生けるのがとても好きです。群馬の自宅の庭を造る時、特別珍しいものでなくていいので、年間通して花が途切れないように花木を入れた庭にとお願いしました。ところが、松山に居ることが多く、時々留守をするマンション生活では思った通りにはいきません。ある時から、万華鏡を読んでいただいている方から庭に咲いた季節の花の写真を送っていただくようになりました。この花が咲く季節なのだと感じることができて、また時には万華鏡の写真に使わせていただいたりして、とても感謝しています。
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