かざみきもの学院
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<2017年6月>

 

1週間の入院生活より

 5月26日から1週間入院し、「カテーテル冷凍アブレーション」 という手術をしました。学院ホームページに、「万華鏡」 というタイトルでコラムというか私の独り言のような文を毎月5日更新しているため、入院の日は特別することもないので、原稿を持ち込み、手を入れるつもりで、6月1日衣替えの時期、季節を大切にする着物の決まり事と、地球温暖化による着る側の立場として、長くこの仕事をしてきて、経験からのさまざまな工夫を載せる予定でした。けれども病室で1日2日・・と過ごすうちに、全く別の面から大切なことに気づきました。

 私は子どもの頃からあまり病気をしたことがなく、この歳になるまで入院と言えば、高校時代の盲腸(虫垂炎)と、2度のお産くらいで、検査もあまり熱心にした方ではありませんでした。医療の面をはじめ、今の病院のシステムも分からないことが多く、個室を希望しましたが空きがなく、6人部屋の窓側になりました。充分快適に過ごせましたし、むしろこのことから、私の中で 「万華鏡」 の内容を差し替えても、今書いておきたい大切なこととなりました。

 「万華鏡」 は学院ホームページに 2005年から毎月5日更新で、学院関係だけではなく、卒業生・友人・知人の皆さんが見てくださり、メールをいただくのが嬉しく、これだけは毎月書くようにしています。

 手術はあっという間に始まり、一瞬ウトウトしている間に 「終わりました」 とのこと。 「え!これから始まるんでしょ?」 という感じでした。実際は 2時間くらいだったとのことです。その日は集中治療室に 1泊となりました。深夜に待機している看護師の方が、私が手を動かして布団がかすかな音を立てただけでも確認に来てくださり、申し訳ないくらいでした。

 退院当日の朝、早くから目が覚め、静寂の中、カーテン越しに少しずつ夜が明けていく様子を見ていてなぜか涙が出てきました。 1週間を振り返り、先生はじめ看護師の方々にお世話になったという感謝の気持ちはもちろんですが、それだけではなく、私の中で何かが変わったという思いがありました。

 2年前、以前から関心があった尊厳死の勉強会に参加させていただき、日本尊厳死協会に登録して会員になりました。このことが間違いだったと言っているわけでは決してありません。「自分が、命について真剣に考えただろうか」 という点です。
命に真正面から向かい、取り組んでおられる先生・看護師・スタッフの皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。患者はとにかく皆不安です。今回の病気・手術についてとても丁寧に説明していただきました。そのおかげで不安は全くなく、私にとって今回のことがあったおかげで、精神的にも気づき感じることがありました。

 どんな仕事も突き詰めていけば 「人」 です。ひとまとめで、数ではなく、それぞれ一人一人違います。私たちの世界でもはっきりした目標がある人、着物を通して自分を高めていきたい人、勤務の関係で授業日がなかなか合わない人、続けたい気持ちはあるけれど家族の病気などで動けない人・・・。長く生きてきたので、それぞれの事情と、ご本人の気持ちも理解できます。

 ここに来てはっきりしたことは、事業欲も名誉欲もない私でも、この道で今できること、今だからできることがあるということです。着物が好きで集まってくださるみなさんの、それぞれの事情を理解した上で進めていくこと。それが、私の大切な役割だとはっきり思うようになりました。

 今回の入院は、何かを気づかせてくれるためのものであったと感じます。病気を通して素の自分になれたこと、また、同室の方々と先生や看護師、スタッフの皆さんのやりとりも心に響きました。娘達とそのような話をしていたとき、「なんでも、良い風に考え、いい事しか思い出せない」 と言うと、手術中に、待合で姉と話した長女が、「おばちゃんが同じことを言ってた」 とのこと。いつの間にか姉妹同じような考え方をするようになったなと思うと、父をはじめ何人もの看病をして、自分は誰の手も借りず、心不全で逝った母のことを思い出しました。

バックナンバーはこちら (毎月5日更新)

渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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